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循環器内科

心不全を繰り返す僧帽弁閉鎖不全症に対する経皮的僧帽弁クリップ術

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2022/03/02更新
はじめに

心不全は高齢化により年々増加しており、まさに『心不全パンデミック』を迎えようとしています。心不全は発症した患者の4人に1人が1年以内に再発し、心不全を繰り返すことでさらなる再入院のリスクを増大させ、遂には死亡のリスクを高めることになります。

繰り返す心不全の原因の一つに僧帽弁閉鎖不全症があります。

僧帽弁閉鎖不全症とは

僧帽弁閉鎖不全症は大きく分けて2種類あります。

僧帽弁は左心房と左心室の間にあり、左心房から左心室に血液を送り出し、その送り出した血液が左心房に逆流しないように心臓の動きに合わせて開いたり閉じたりします。

僧帽弁閉鎖不全症とは、僧帽弁がうまく閉じなくなり血液が逆流してしまう現象を指します。

僧帽弁閉鎖不全症は大きく分けて2種類あります。

  • 器質性(一次性)僧帽弁閉鎖不全症
    弁自体に欠陥があるために完全に閉じることができず逆流が生じた状態です。
  • 機能性(二次性)僧帽弁閉鎖不全症
    左心室や左心房など弁以外の欠陥によって、僧帽弁自体には異常がないにも関わらず、心臓の動きが低下、心臓が拡大することによって、僧帽弁の閉まりが悪くなり逆流が生じた状態です。

この中でも、「機能性」僧帽弁閉鎖不全症は、逆流によって心臓に負担がかかり、心臓が拡大するという負の連鎖となります。さらにこの病気の厄介なところは、心不全が増悪している時には重症であっても、心不全の改善後には症状が消えたように見え、なかなか原因の特定に至らず、隠れた心不全の原因となります。機能性僧帽弁閉鎖不全症は、心筋梗塞を罹患した患者の約2人に1人、心不全患者の約5人に1人で合併し、予後不良です。

症状、適応となる患者像

初期は、無症状で経過します。しかし、病態が進行することで

『息切れ』、『動悸』、『疲労』、『めまい』、『咳』、『足のむくみ』などの心不全の症状が現れます。

繰り返しとなりますが、僧帽弁閉鎖不全症は、症状があるときは重症であっても、症状改善後には消えたように見えます。

そのため、なかなか原因の特定に至るのが難しく、隠れた心不全の原因となります。

  • 何度も入退院を繰り返す心不全
  • 利尿剤を複数内服している
  • 下腿浮腫がなかなかとれない

など原因のはっきりしない、何度も繰り返す心不全には、僧帽弁閉鎖不全症が隠れている可能性があります。

また

  • 心不全治療薬で血圧低下し、至適薬物療法を受けられない。

最新の治療薬は、長期予後改善や心不全再入院を減らす有効なお薬が、多く登場しています。

しかし、いずれのお薬も血圧降下作用が強く、併用することでふらつきやめまいなどの低血圧症状を起こし、継続内服できないことがあります。

必要な検査

  • 経胸壁心エコー(胸の表面からあてるエコー検査)
  • 経食道心エコー(胃カメラのように食道内からのエコー検査)※
  • 血液検査
  • 胸部レントゲン検査
  • 心電図検査
  • 心臓CT※
  • 心臓MRI※

※は、必要時、検査を行います。

治療方法

治療は、「マイトラクリップシステム」と呼ばれる、まさに僧帽弁に15-18mmの小さなクリップを取り付け、僧帽弁逆流・心不全を改善します。

この治療はカテーテルを用いて、胸を切らずに治療を行うことが可能です。

実際の治療は全身麻酔を用いて行いますが、右足の付け根の約1センチの傷のみで治療が可能です。

図の通り僧帽弁閉鎖不全症の原因となっている部位にクリップを取り付け自身の弁を温存することができます。

Q&A【手術を受けられる患者さんへ】

手術時間は、どれくらいですか?
手術は逆流の原因や、逆流位置にもよりますが、術前後の麻酔時間も含めて2時間程度です。実際の手術時間は、1時間程度です。
入院期間は、どれくらいですか?
手術前に3日間、手術後7-10日間程度で、約10ー14日間の入院となります。
心臓や肺が悪いと言われています。カテーテル手術(経皮的僧帽弁クリップ術)はできますか?
クリップ手術などのカテーテル治療は、ご高齢であったり、肺が悪かったり、心臓の動きが悪かったりと外科手術ハイリスクとされた患者さんには、むしろ良い適応になります。
希望すれば外科治療ではなく、カテーテル手術(経皮的僧帽弁クリップ術)を受けることはできますか?
経皮的僧帽弁クリップ術は、外科手術ハイリスクと判断された患者様が対象となります。僧帽弁治療は基本的に外科手術が第一選択となります。ただ単に「外科手術が嫌だ、心配だ」というだけではクリップ手術の適応にはなりません。外科手術にするか、僧帽弁クリップ手術にするかは循環器内科や心臓血管外科医だけでなく、 心不全専門医、心臓リハビリテーション専門医、呼吸器科、麻酔科などを含めた当院ハートチームで検討し、適切な治療を患者様に提供致します。
経皮的僧帽弁クリップ術後にMRIを受けることは可能ですか?
MRIは可能です。
治療費用はいくらかかりますか?
例) 経皮的僧帽弁クリップ術(マイトラクリップ)治療10日間の入院の場合
(健康保険を利用。入院期間が月をまたがない場合)
経皮的僧帽弁クリップ術を受けることによって、お薬は減らせますか?
経皮的僧帽弁クリップ術は、心不全治療の一助にすぎません。心不全に対するお薬は術後も継続して内服が必要です。また逆に経皮的僧帽弁クリップ術後に心不全薬を強化(増量)することもあります。
理由としては、最新の心不全治療薬は、長期予後改善や心不全再入院を減らす有効なお薬が多く登場しています。しかし血圧降下作用が強く、併用することでふらつきやめまいなどの低血圧症状を起こし、継続して内服できないことがあります。しかし、経皮的僧帽弁クリップ術は心臓内の血液の流れを正常に近づけることで血圧が上昇します。そのことでお薬を効きやすくし、効果的なお薬を導入することができます。
しかし、経過によって利尿剤(尿で余分な水分を出す薬)などは中止できることもあります。

Q&A【経皮的僧帽弁クリップ術の適応にお悩みの地域の先生方へ】

僧帽弁逸脱症(器質性僧帽弁閉鎖不全症)による逆流は治療可能ですか?
治療可能です。逸脱部位によっては治療困難部位もありますが、治療できる可能性はあります。
心機能低下による機能性僧帽弁閉鎖不全症による逆流は治療可能ですか?
治療可能です。むしろ経皮的僧帽弁クリップ術の良い適応です。
心房細動で心房・弁輪拡大した機能性僧帽弁閉鎖不全症による逆流は治療可能ですか?
治療可能です。心房細動持続時間によって難易度は上がります。持続期間が短ければ合わせてカテーテルアブレーションを薦めます。
治療不可能な形態はどんなものですか?
僧帽弁口面積が小さい場合や、僧帽弁自体の石灰化が強い場合には、術後に僧帽弁狭窄症に至ることがあり、不適応となります。また活動性の感染性心内膜炎や僧帽弁置換術後の逆流も不適応となります。
透析症例は禁忌ですか?
治療可能です。
ペースメーカーや両心再同期療法(CRT)を受けた症例も治療可能ですか?
治療可能です。しかし、ペースメーカーリードが抜ける可能性もあるため、新規ペースメーカ植込後3ヶ月、新規CRT植込後6ヶ月はあけるようにしています。
経皮的僧帽弁クリップ術の再発症例にも治療は可能ですか?
非常に困難ですが、条件によっては治療可能です。
僧帽弁形成術後や弁輪形成(リング)術後は治療可能ですか?
非常に困難ですが、治療できる可能性はあります。しかし、精査が必要となりますので一度ご相談ください。
どのタイミングで紹介したら良いですか?
下記のような内容をご検討ください。
  • 何度も入退院を繰り返す心不全
  • 利尿剤を複数内服している
  • 下腿浮腫がなかなかとれない

など原因のはっきりしない、何度も繰り返す心不全には、僧帽弁閉鎖不全症が隠れている可能性があります。これまで心不全入院を繰り返し、原因不明とされている場合には、一度ご相談ください。
その他に、

  • 心不全治療薬で血圧低下し、至適薬物療法を受けられない。
  • 利尿剤を増量しても、心不全改善せず腎機能低下が見られる。

心機能が低下した患者さんで長期に渡り、至適薬物療法を導入しようとしても血圧低下によって導入できない場合はご相談ください。経皮的僧帽弁クリップ術で血圧上昇し、至適薬物療法を導入・増量が可能となります。

心不全改善後でも、僧帽弁逆流は評価できますか?
評価可能です。負荷心エコー検査で心不全の状態を再現し、負荷によって逆流量が増悪する場合には、経皮的僧帽弁クリップ術の良い適応となります。
負荷の方法は簡便で、当院では主にハンドグリップを用いて評価を行なっており、予約なしの外来でも可能です。
結局のところ、適応がよくわからない。

僧帽弁相談ホットライン

僧帽弁閉鎖不全症のクリップ術適応に関して、ご相談がございましたら、下記までご連絡ください。
    こちらは医療機関専用窓口としてますので患者様は主治医にご相談ください。
  • 僧帽弁治療担当医: 遠田佑介(えんたゆうすけ), 宗久佳子(むねひさよしこ) TEL: 022-222-6181
  • 御本人の受診がなくとも、紹介状と心エコー画像のみを送っていただければ、「経皮的僧帽弁クリップ術(MitraClip)」の概ねの適応に関してお答えさせて戴きます。紹介状、心エコー画像を下記(当院 医療連携課)まで郵送ください。担当医から、早急にご回答致します。なお、郵送いただいたデータ、CD-R等は当院にて責任を持って破棄させて戴きます。

  • 郵送先: 〒980-0873 仙台市青葉区広瀬町4-15 仙台厚生病院 医療連携室

  • 当科のFacebookからも、ご相談が可能です。

  • 『仙台厚生病院循環器内科
    Facebook https://www.facebook.com/sendaikousei.cardiology.6181
    のMessengerよりご連絡いただければ返答も可能です。

  • 仙台市・宮城県にかかわらずご相談ください。



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